どちらにしろ、ひどく

 ひどく、いらいらする。
 それは何かが嫌になったり、辛くなったり、そういういらいらではない。分かっている。気持ちがざわざわして、落ち着かない。振れては戻り、繰り返す。具体的な何かから、自分の立ち位置を定められたら良いのに。決定的なことが何か一つでもあって、それを拠り所にして、全てを定めていければ良いのに。もう、生まれてから何年目だ。なにやってんだ。最低な気分だ。
 親友の好きな人を、好きになってしまった。
 僕には理性がある。見たことは無いが、たぶん、愛情もちゃんとある。それは僕の中心に、重く埋まっているはずだ。僕には礼も恩もある。義理も人情だってある。ある人間だと思う。まっとうな、人間だと思う。そう見られたいわけではなくて、僕の理想は、そういう人だから。心を持った人だから。
 心を持っているから、心が欲しくなる。他の人の心を、欲しくなる。確かめたくなる。僕に心があるのは、どうしてなのか。それを、君は知っているのか? 君の心を知れば、少しは分かるのか。
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 過去の文豪は、今の僕たちのような物語を書いた。結末は悲しくて、僕はそうならないよう、生きていくだけだ。けれどその悲劇は、よく理解できる。心がどうしてあるのか。それは友が死んでしまった時に、分かるのかもしれない。
 最低な気分だ。