『溺れる彼女と御手の罪人』

『溺れる彼女と御手の罪人』
 時代は1999年。
 僕は空っぽの棚だけが残る玩具屋で、その日出所する姉さんを待っていた。
 姉さんは憎まれている。母に、この村の女達に。姉さんは忘れたがられている。父に、この村の男達に。
 だから、僕が守らなくちゃいけないんだ。
 
 姉さんは分かっていないのか、知っていながら無視しているのか、全てを楽しんでいるのか分からない表情で、いつも微笑んでいる。その微笑みがこの村の全ての厄災の元だと、どう気付かせたら良いのだろうか。

 姉さんは美しい。全ての女より美しいのは、そこに居ないからだ。姉さんは、常世の人ではないからだ。

 僕は17歳。僕の村では老人が多くて、子どもは少ない。だから、地域振興券なんて使う大人も子どももいない。僕の家には届かないので、この娘が僕の店に買い物に来て、初めて本物を見たくらいだ。
 「使わないと損だから、買いにきたんよ」

 汚い男達が、琥珀の敵。しかし母を失い、そして今さっき父を失った琥珀に、姉が囁く。「これで、私たちを姉弟と証明できなくなったね。できることも増えたけど」

 男は汚い。しかし女達は、汚い男を責めるより、キレイな女を責める。そういう矛盾を琥珀は嫌う。しかしそれは、琥珀の確立された立場の意見では無い。

 天岩戸に姉は閉じ込められる。外で大声で笑う町人達。しかし姉は本当に死んだのか?何処かへ逃げ延びていないのか? 町人達は不安がり始める。岩戸を開ける町人達。出てくる光の粒、蛍。姉の姿は無く、町人達は更に奥へと進む。そして戸は閉まり、街は静かに衰退していくのだった。

 僕は、街を殺して、姉を救った。