お誕生日おめでとう。

 上手く歳をとるには、どうしたらいいのだろう。
 目の前にあるケーキには、私の名前とたくさんの生クリーム。甘いケーキが私にはお似合いだと言わんばかりの生クリーム。別に甘くないケーキなんて嬉しくもないんだけど。たまたま遊びにきた従姉のあきさんには3歳になる男の子がいて、生クリームに興味しんしんだ。
 歳をとることは簡単なような気がする。寝て、起きて、食べて、また寝て。その繰り返しで私の身体は老いていく。お腹もぶよぶよになって、髪ものびていく。でも、心はどうやって歳をとるんだろう?
 子どもを産むこと? 家を買うこと? 恋人と一緒に暮らすこと?
 人によって答えは違っていても、どれもに共通する何かがあって、それに気付くまでは私は上手く歳をとれないだろう。そう思うと、もう少しきちんと高校の時に勉強しておけばよかったと後悔する。勉強が分かるから、上手く歳をとる方法が分かるわけじゃないと思うけれど、きっと勘の鋭さや物事を把握する方法は、もう少し勉強の中で養えたと思うから。
 でもそんなこと今さら後悔しても遅い。心を成長させてあげる方法は、きっと今の生活の中で見つけ出すしかない。案外、ヒントはすぐ近くにあったりするものだ。うん。
 生クリームがその姿を整えていられるのは、中にある空気の量と関係する。元は液体だったクリームに、どんどんどんどん空気が入り込んで、泡状に構成されていくから、液体クリームは見慣れたクリームになる。つまり、何かを内に抱えていくこと? それが形を整えていくのだろうか。
 
 私には大切にしているものがそんなにない。髪を伸ばしているのも得に大きな理由は無い。子どもも居ないし、旦那も恋人もいない。作ろうとも思ってないのは問題かもしれないけど。もし自分がもうすぐ死ぬとして、これだけはしておきたいことを選べるとしたら、私はゆっくりしたいと言うかもしれない。特別な場所や、特別な出来事には興味がわかない。というより、たぶん、期待をしていない。大切にしているものも無いし、何かに期待もしてない自分。大丈夫なんだろうかこんな19歳。
 大切なものを見つけて、それを抱え込むこと。両腕の内側に巻き込んで、大切にしていくこと。そういうことなのだろうか。上手く歳をとる方法って。

 やっぱり、生クリームじゃよく分からん。とりあえず食べてから考えることにする。