煉瓦を焼いて。

 「いっておく。これは夢の話だから、別に深い意味とかないから」
 そういって深野くんは最近見ると言う悪夢の話をしはじめた。次の授業が4時からだから、時間も空いていたし、わざわざ断るのも悪い気がしたので聞くことにした。でも、こんなこと言われると深い意味があるのかと思うじゃないか。聞いて欲しいのに前置きをしないといけないなんて、よほど悪い夢でも見たのだろうか……?

 深野くんが「で、どう思う?」と言って悪夢の話は終わった。僕はそれを最後まで聞いたけど、何処が悪夢なのか分からなかった。でも深野くんにとってはとても怖い夢だったらしい。部分が怖いというより、全体が怖くてもう見たく無いのだという。噛み砕いて話すとこうだ。

 深野くんが森の中を歩いていると、一見の大きな煙突の突き出た家に着いた。深野くんはそこでパンか水をもらおうと思ったそうだ。ちなみに深野くんは極端なくらいに主食は米派の人間だ。ここで深野くんは自分の体調が悪いと感じ始めたらしい。自分がなんでパンを食べたいと思ってしまったのか。そして深野くんはその不安を抱えながらドアをノックした。すると出てきたのは深野くんの死んだおじいさんで、でもお互い見ず知らずの挨拶を交わしながら家の裏に案内されたそうだ。
 家の裏には大きな煙突のついた小さい釜で、アンバランスさが今にも崩れそうな不安を感じたらしい。おじいさんは釜が轟々と燃えているというのに汗ひとつかかずに、かき出し棒のようなもので煉瓦を取り出して見せたそうだ。その煉瓦はとうふみたいにフルフルと揺れていて、とても煉瓦には見えなかったけど、深野くんはこれを煉瓦だと思ったらしい。そしておじいさんに聞いた。「これは煉瓦じゃないですか、僕が欲しいのはパン。そして水です」するとおじいさんは、「これは煉瓦ともパンとも言える。お前にはこれが煉瓦に見えたんだね。しかし重要なのはそれでは無いんだ」では何だと言うんだと深野くんが聞くと、
 「この釜は何を焼いて熱を生み出しているか、ということだよ」
 そういって深野くんの夢は終わった。やはり僕には分からない。でも深野くんはこの夢がとても怖かったらしく、その日からパンも食べることを決めたらしい。