この街から、この町に。

 ・2月末に引っ越しをした。
 住んでいる場所を変えるのは何度目だろう。新しく歩く街の、どの通りもどのお店もその一つ一つが、とても新鮮で、子どもみたいに覗き込んではニヤニヤする。八百屋も肉屋も魚屋も、洒落たレストランも地元の洋食屋も、センスの良さそうな本屋も、小劇場も古着屋もギャラリーもあって、なんでも有るなと思った。
 ランドセルの子ども達が登校する。カレー屋のインド系の人と、店の前を通るイギリス人っぽい人が笑顔で挨拶してる。おばあちゃんがバスを待つ横で、お母さんが幼い娘をだっこしてる。知っていたような、知らなかったような。嬉しいような、近づいて行って良いものか迷うような。
 それはたぶん、何処であっても必ず誰かにとっての日常であって、大事な居場所であって、それが珍しく見えるというのは、つまり、私の居場所では無いということなのであって。引っ越す度に、その土地に慣れたいと思いながら、邪魔をしたくないとも思っていて、思ってしまって、そのギクシャクする自分に最初の頃はいつも戸惑う。
 ・昔の友達に会った。
 卒業してから一度しか会っていなかった友達が、東京にきた。もう一人を誘ってお酒を呑んだ。どんどん呑んで、たくさん話した。相変わらず意見が合わないから、真剣に話しても通じなくて、そこも相変わらずだなと思った。お互いの人生がどう変化していっても、結局彼女は情に流され易いし、その分愛情が深い人で、どうしようもなく羨ましくなってしまう。大好きな人だから、彼女の一途な行動を心配してしまって、私の言葉にも熱が入る。自分の人生を大事にしない人が、どうして誰かを大事にできるっていうの?って言いながら、「それは自分も一緒じゃないの」。
 でも、私は少しは変わったんだよ、と内心思っている。自分も大事にしているし、無謀なことはしていないつもり。周りは心配するだろうけれど、それは、お互い様に心配し合うようなレベルのことだと思う。一度きりだもの、生きていられるのは。
 やっぱり大事にしてないと思われるだろうなー。