真夜中の太陽

 「ラフカット2009」で、特に良かったのが、二番目。「真夜中の太陽」。
 他の3作も素晴らしいと思ったのだけど、一番相性の良い作品はこれだった。谷山浩子さんをあまり存じ上げておらず、申し訳ないと思う。だって、本人を知らずに歌に感動して泣いてしまったのだから。もっと詳しかったなら、更に深く入り込めていただろうし。

 舞台の上でセーラー服ともんぺを着た女学生達がはしゃぐ中に、ひとりだけおばあさんがいる。しかしそれは、いつもの音楽の時間。生徒達には、同じ様に見えているのだろう。いつの時代も、もちろん国と国とが争うような時代でも、女の子が元気だと安心する。うるさいくらいで、多分ちょうど良いのだ。そんな、なんら変わらない学校の日常。音楽の先生は外国からいらした方で、よく見ると、ちょっと似ているかも。今で言う、ブラット・ピットに。たぶん生徒の何人かは、その先生が、好きだったかもしれない。きっとそうだ。
 空襲を知らせるサイレン。それは残酷に、彼女達から合唱の美しい響きを、奪い去ってしまう。逃げ惑う女学生達、防空壕へと逃げる彼女達を、おばあさんは止めようとする。行ってはいけないよ、そっちに逃げては、いけないよ! けれど、過去は、やはり変わらなかった。焼土となってしまったのは防空壕の方で、校舎も音楽室もピアノも、無事だった。多くの声が奪われ、多くの命が奪われ、亡くなってしまった女学生達。その中でひとりだけ、楽譜を取りに戻った女学生は無事で、82歳まで生き続けた。もう、立派なおばあさんだ。彼女は回想する。過去を変えることは出来なくても、彼女達と何か話せないだろうか。

 彼女の夢と想像の世界で、女学生たちと対話する。ひとりだけ空襲から生き延びて年老いた女学生は、今はもう、椅子に座っている姿も、とても小さく、背中も丸まってしまった。
 「大きくなって、どんなお仕事をしたの?」
 「たくさん恋をしたの?」
 「旦那さまはどんな方?」
 「こどもはいる?」
 「孫は?」
 彼女は静かに、ひとり、と答える。

 「孫は可愛い?」

 彼女が、言葉を少しためて、静かに、かわいい、と言う場面で、私は泣いてしまった。
 女学生達はそれを喜ぶ。うれしがる。一人だっておばあさんをうらむようなことはしないし、そんな心配は、まったくいらなかったのだと、安心する。
 彼女らは皆、歌う。あの時歌えなかった、合唱を歌う。先生も、それを聞いてくれる。

 探したけれど、youtubeにも「真夜中の太陽」の曲が無くて、ここで伝えられないのが残念。拙いあらすじで、素晴らしい舞台の演出のこととか、息の会った女学生達の演技とか、先生の表情とか、おばあさんの声の暖かさとか、そういうものも伝えられなくて残念。なんて無力。
 けれど舞台は本当に良くて、出来れば皆さんに観に行って頂きたい。
 戦争はダメだよとか、そういう説教臭いことではなくて、ただただ、そういうことが、確かにあったんだなぁと、そうして、胸が痛い。けれど、彼女らが元気にはしゃいで喋っている姿を観ると、無性に嬉しくて、でも苦しくもあって、それでも話せて良かったね、と、笑顔でそう思う。
 そんな舞台でした。谷山浩子さん、作・演出の工藤千夏さん。どうもありがとうございました。