新しい靴

　新しい靴を買う。
　仕事に出ている時の自分とは違う、プライベート用の靴を買った。私は昔から買い物が早い方で、あんまり迷わない。欲しいものの目星をつけていくわけでもなく、ネットや雑誌で特定してから買いに行くでも無いんだけど、すぐに決まる。私の中で、アリか、ナシかが、たぶんハッキリしているんだと思う。この辺は好みの異性の判別にも通じる。
　仕事用だとある程度自分の他人への見られ方やら、どう見られたいかとかを計算してしまう所があるので、あんまり楽しい靴選びではない。社会人としてとか、相手への一般的な礼儀として……みたいな靴の選び方をする。まぁ、当たり前と言われればそれまでだけれど、そんな所まで気を遣わんでもええやろ、と自分の中のすみっこの人が突っ込みを入れてくる。まぁ、一緒に仕事してる人が気まずい思いをしない為ってな理由をつけて、深く考えることを回避してます。
　人とのコミュニケーションは、互いの計算とか優劣とか、そんなつまらないものに縛られてはいけないし、大切に思うのなら素の自分をさらけ出して笑われてからが始まり、みたいな所もあるから（一般の人は違うのかもしれませんね……私はマイノリティだと自覚はあります）、普段の買い物とは違うのは分かる。ふと今日も、どうしてこんなに人間同士の付き合いが難しくなってしまったんだろう？と考えてしまった。靴選びひとつをとっても、そこに深く計画を立てる人間がこうして居たりして、不思議だ。こういう考察は本来、誰も欲していないかもしれないのに。
　私はスニーカーが好きで、特に黒いスニーカーが好きだ。
　本当はもっと装飾や色で楽しませてくれるような靴を選べば良いのかもしれない。プライベートだし。誰に文句を言われるでも無いし。けれど、スニーカーなのに大人っぽい、スニーカーとして気軽なくせに地味な色してる、とかいうところに私はひっかかる。そしてそんなスニーカーが好きだ。
　私の好きな人にも通じているのかもしれない。本当はもっとはしゃいだり、馬鹿なことをしても良いのに、真面目ですました顔をしている人。そんな人が好きだ。大人になろうとしている人、そういう努力をしていると分かる人、そんな人が好き。そういう人を甘やかしてあげたいと思う私は、ダメな女かもしれない。