妻子ある

 愛とは、欲なのか。
 私の大切な友達は、妻子ある人から好意をもたれているらしい。
 好きな人ができて、愛する人になって、一緒に暮らし始めて。子どもが生まれて、会社で働きながら、二人を養って。そうして暮らしている男が、ふと、新しく好きな人ができてしまうこと。好きなひと、もの、できごと、それらが増えていくのは仕方ない。というか、好きな気持ちは、良いものだと思う。それを許さないのは、社会のルールや、道徳や、生まれた国の習慣。その人達の周囲に長い時間をかけて積み重ねられた、「そうしてきたから」「そうあるべきだから」、そんなものが個人を抑圧している。根拠は特にあるようでないような、現実の罪ではない心の罪。それを罰するのは簡単。だって、悪いことでしょ、って言えばいいんだもの。だからこそ、こうして悩むんだ。
 愛とは、たぶん欲だ。私自身の、これまでの短い人生経験から言えば。そして、それはとても手に余る。
 男女のどちらかが悪いとも言えない。多くを望むことも罪じゃない。自分を大切にしない相手を恨むのも、理解できる。あーあ。本当に誰も悪くない物語が、この世に一つくらいあれば良いのに。
 とりあえずは、愛を悪者にして遣り過ごすしかないのか。