糸のようなもの

 お酒を呑んだ時くらい、自分から抜け出せたら良いと思う。感覚が鈍くなったのか集中しているのか分からないけれど、酔いが、全身を細い糸のように変えている。そんな気がする。必要最低限な動きが、動きを担う筋繊維や骨が糸のように細いラインへ化けて、感覚がそこにしかなくて、私はクモの糸みたいに透明でか細い存在になってる。
 余計な肉の部分は何の為にあるんだろう。必要なのは、今感じているこの細い感覚だけであって、他はいらないんじゃないか。余計な厚みとか、身体の中に隠されるように仕舞われているいろいろな考えとか想いとか。妬みとか愛着とか、野望とか性欲とか、気遣いとか嫌われたくないとか、誰かに尽くしたいとか。そういうものに、何の意味があるのか分からなくなってきてる。でも私の中には人より何倍もそれが隠されて圧縮されていて、それがとても見苦しい醜い汚いものみたいに感じて全身が重くなる。沈む。
 自分は自分だし、抜け出せないし、日々汗をかいて臭うものだし、キレイに洗えば多少さわやかな気持ちにはなる。けれど、いつかは死ぬんだ。周囲にいる人もそう。大事にしても、眼の前で死なれるか、離れていって死なれるか、どちらか。


 私はまだこだわっているのかもしれない。先日友達の父が自殺して、それを気にしないように普通に暮らしていた。娘である彼女は一時的な失語症になって、それで元カレに連絡をとって、元カレが今の彼女となんとなく不和になって、そんな二人をみながら全体をみたつもりになりながら私は苦悩してる。
 一時的に生きているのが辛くなってるだけ、というのは経験則で分かる。落ち込んでも明日はたぶん元気だ。馬鹿だから。
 でもこういうのはやっぱり辛い。いつも落ち込む。それも馬鹿だから。
 明日もやっぱりがんばってしまうだろうから、今夜は休むよ。