自分の仕事をつくる。

自分の仕事をつくる (ちくま文庫)

自分の仕事をつくる (ちくま文庫)

 合理的であること、生産的であること、無駄がなく効率的に行われることを良しとする価値観の先にあるのは、極端に言えば全てのデザインがファーストフード化した、グローバリズム的世界だ。そのゲームから降りて、仕事の中に充実感を求める時、私たちには「時間」を手元に取り戻す工夫が求められる。


 世間を相手に大きく動く為には、実績をつまねばならない。それが理想の仕事をしたい、という目標を持つならなおさらだ。世間は「時間」を「お金」に変換する場所だ。だから「時間」をただで譲り渡してくれる人はいない。すくなくとも都会には、むしろ東京にはそんな人は「居てはならない」ような気さえする。これはそういう人を否定したい意味はなくて、むしろそういう人が「時間」を奪われて傷ついていって欲しく無いから、思う。側で見ているのもつらいし、それを負けだとか心が弱いだとか非難する場面も見たく無いからだ。
 各々の時間を効率よく使っていくこと=経済的な成功を手にすること、と考えても決しておかしな話ではないよ。時は金なり。これは事実だ、私たちがそういう世界に住んでいるのはまぎれも無い事実だ。けれどそれに染まり過ぎた人間を、私は著しく「醜い」と思ってしまう。

 私たちは、たらふく食う為だけではもう生きていけない。心の充足が欲しい。平たく言うと、愛、なのかなぁ。
 他人に承認されたい、肯定されたいとか、受け入れられたいとかね。私が私であること、それを支えてくれる誰かの心。それ無しではどうやったって幸せには成れていない気がするんだよ。ある意味子どもっぽいというか、甘えというか、自立出来ていないとも思えなくもないけれどね。そういう心を預ける行為を、誰かと交わしたいと思うのも、やっぱり事実だ。
 そういう幸福感を物に込めるとしたら、丁寧に取り組む為に、やはり時間がかかる。時間のかかったものだから、人の手を離れても受け手に思いを伝えられると思う。意匠と心遣いとに満ち満ちたもの。心の穴を埋めてくれる、感情のサイクルに若い勢いを注ぐような作品は、偶然が重なっても生まれない。偽物はすぐにバレる。急ごしらえなものに、むしろ受け手は傷つくんじゃないかと思う。信頼したのに裏切られた、と。
 良いものを創ること、悪いものを創らないこと、その為には「時間」を手に入れなくては。大勢の人間の「時間」を少しずつ分けてもらわないと。「時間」は「お金」に変換できる。その為には、実績を積んで、信頼を得ないといけない。譲り受けるのに、ふさわしい人間にならなくては。
 自分の理想の仕事って、完成品を喜ぶ人達や、大切な相手を思うことから始まる。良い人間になろうとすることで、理想の仕事は得られる。何が良いかは、少しずつ取り組んで、ちょっとずつ「当たり」を積み重ねていきましょう。

 終電の後、最寄りのマクドナルドで読む。まだ途中。
 ちなみにマクドナルド好きです。あのファーストフード感は安心する。誰が居ても良いし、いつまで居ても良いし。気を遣い過ぎず、居心地の安定した場所。そんな気がします。だから「ファーストフード」という言葉が悪いように使われる機会が多いのは、何だか悲しくもあるんだ。分かり易いってのも、一方では分かっているんだけどね。そんなことも少し思いました。

 あなたも私も、結果がついてこないことも日々多いと思いますが、信じましょ。「時間」をかけて、見えることも多いです。
 視野がすっきりするような、そんな気持ちになるかなり良い本です。