思い出の放課後

 懐かしいものほど、小さく見える。
 夕暮れの光をいつぶりにこの場所で見ただろう。不揃いに並んだ机の木目にオレンジの陽の光が斜めにさしていた。こんな眺めだっただろうか。こんな大きさだっただろうか。遠い昔のことでは無いはずなのに、思い出そうとするたいていのことは、変わってしまった部分に引きずられる。こんなに、小さかっただろうか。

 「どうでした?」
 職員室でコーヒーをごちそうになりながら、僕はあれやこれやと感想を話す。自分が通っていた頃とは随分と違う世界にも見えて、でも地続きで僕の今の生活があるようでもあって……。なんだかよく分からないまま、気付くと一生懸命に気持ちを話していた。熱心になると少々恥ずかしいことを口走ってしまうので、その度に先生は微笑んで僕を見ていた。こういう所は昔も今も変わらないのだと思う。小さい頃の先生は、熱心な僕を褒めてくれた。熱心であること、情熱を持つことは、誰にでもできることではない。だから、君はそれを誇りに思いなさい、と。背がなかなか伸びなかった僕は、そう語る先生を見上げ、こういう大人になりたいと思ったものだ。
 今目の前にいる初老の先生は僕よりも一回り小さくて、おとなしそうだけれど、眼を細めながら僕の話を聞いてくれている。コーヒーの匂いも合わさって、なんだか安心する。きっとここの生徒達も、この先生の良い所を受け継いでいくのだろう。

 職員玄関まで見送ってくれた先生にお礼を言いながら、僕は母校を後にした。結局取材で訪れたはずが、なんだか慰安旅行のようになってしまった。でも満足している自分もいて、今日のことを許せてしまう。甘い自分でも、今日は許しても良いと、そう思える。

 それに触れるのは、こわいこと。
 それが小さいことは、自分の大きいのを知ること。
 最初は甘い、後から苦い。
 苦くなければ、甘くもない。
 またあうひまで。