ムッとする湿気と暑さ。

 梅雨がもう少しでくるのだな、と神田くんが言う。そうして好物のみたらしだんごの最後の一個を、どうにか口を汚さずに食べられないかと口を広げる。あ、ほっぺについた。神田くんは諦めて最後のだんごを一気にくわえて引き延ばした。
 もう一本食べてもいいか?と聞くので、これで最後だよと100円玉を渡す。嬉しそうにお礼を言うと、神田くんは近くの出店まで駆け足で行ってしまった。この徳井公園には大きな池があって、それを囲むように広い歩道がしかれている。その周りは人工の森だ。歩道には休日も平日も出店が出ていて、今日はだんご屋さんのようだった。僕と神田くんはよくこの公園にくる。街を出歩くのも楽しいけれど、神田くんとぼーっとできるこの公園は、静かで落ち着きたい時には大変よい。今の季節は新しい葉っぱの良い匂いもして、とてもよい。
 神田くんが帰ってくるのもがまんできず、だんごを食べながら歩いてくる。行儀がよくないよ、とかるく注意しても、神田くんは嬉しそうに次のだんごを口へ運んだ。せっかくのお休みなんだし、のんびりだらだらしようよーと神田くんは言う。うーん、まぁ、いいか。お休みぐらいね。いやいやいかん。
 神田くんを元の親へ会わせる時、ご迷惑をかけてはいけないだろう。最初はがちがちに緊張して礼儀正しかった神田くんが、今はもうのんびりとした僕に似てきてしまっている。仲良くなれたのは良いことだけど、締める所は締めないと。
 僕が次に神田くんへ何を言おうか考えていると、今年の梅雨は長いよ、と神田くんがつぶやいた。そういうことを毎年ニュースで聞くような気もするけど、神田くんが真剣に池を見ながら言うので、理由を聞いてみた。池の神様がそういってるから、と神田くんはまただんごを食べた。池の神様?主みたいなものかな。僕はこの池にどんな生き物が住んでいるか知らない。でも、暗くて見えない底には、大きななまずや、ワニや、もしかした主と言われるような大きな生き物もいるのかもしれない。
 神田くんはまた最後の一個をきれいに食べようとしている。口を大きく開けたり、広げて動かしたりして、どうにかだんごだけを食べようとしている。その時、池の方から大きな水音が聞こえた。素早く池を見ると、何か鱗のようなものが水面近くから深く潜っていくのが見えた。できた!と神田くんが言うので眼をそらすと、次にはもう池に広がる波紋しか残っていなかった。