人を助けた話。

 昨夜、線路の上を通る陸橋(?)のような所で人を助けた。
 助けたと言ってもそんなたいした話じゃなくて、ふらふらと自転車を押していた女性が崩れるように座り込んだので、それを起こしただけ。落ちた鞄からマニキュアが落ちて、それを拾ったり、自転車を支えて起こしたり、それだけ。でもこの人は助けなきゃ!と自然に身体が動いたから不思議。たぶん、酔っているなぁという第一印象と、街灯で照らされた瞳から流れた涙の跡が見えたから。よく分からないが、涙とお酒に関係がありそう。理由はどうあれ、きっと助けた方が良いと、頭の何処かが勝手に判断したらしい。
 その時iPodで聴いていたのは椎名林檎の「月に負け犬」で、もやがかかった月がぼんやりと浮かんでいた夜だった。それも理由かもしれない。自分はこの歌を初めて聴いた時から大好きで、その意味がどうして心に響くと思うのか、その理由に気付いたのは随分あとだったけど、ずっと大好きだった。自嘲的なことか、それとも強固な心の強さの表れか、おそらく後者と思いたい。ちょうど自分はその歌を聴きながら階段をのぼっていて、その女性は頂上から降りてくる瞬間だった。それも理由かもしれない。

 何がどう自分の判断の材料になっているかなんて、本当は分からないものだ。どんな状況だろうと、どんな心情だろうと、その瞬間はその瞬間でしかなくて、再現なんてできないし、その瞬間にどうしたかということも、後々ではよく分からなくなる。嘘もたくさん、簡単につくし。良さも悪さも、何も無い。しなかったことはしなかったし、したことはしたことであるだけ。それを「知っているだけ」。

 出来事が起きる理由を、ただ積み重ねていくのでは、人の心は動かない。でも、理由があれば、人の心は「動いてくれるかもしれない」。物語はそういう人の心と繋がっている気がする。

 人間は、そうだから面白い。希望と理想と期待と落胆と、可能性を信じる人で、自分はいようと思った。

勝訴ストリップ

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