夜のいきもの

 久しく眠れない夜。
 気付かないうちにうつらうつらとして。
 そして、私は夢の中であくまと話していた。
 あくまはハーフみたいで色黒で、かっこよかった。私は高校生くらいの姿をしていた。
 あくまは長生きだ。死なないし、望めば何でも叶うんだろうなぁ。それって幸せなんだろうなぁ。と、私は思った。私なんて……と言いかけた所で、あくまは首を横に振って、違うんだよ、というような顔をした。
 「生きるってことは大変なんだぜ。分かるかい。それを解消するのは、想像出来るモノなんかじゃない」
 私は、あぁ、おきまりの説教がはじまるのだなと、思った。そういう時、私は自分が小さい頃の自分に戻った気分になる。小学校の2年生に上がったばかりの頃、何をやっても父にしかられていたような気がした。その頃の自分に姿が変わっていき、あくまの視線が高く、遠くを見つめているように感じた。
 「真実が何であろうと、何処に有ろうとも、理解してくれる相手が一人いればいい。それを支えにして、多くの嘘や矛盾と向き合っていける」
 「生きていくというのは、無秩序な暮らしの中にあって、希望と信念で出来た自分のルールを通して世界を見るということさ。それを遵守すると自分自身に誓うことさ」
 わたしは、あぁ難しいことをあくまが言っていると思った。ルールって何だろう。ルールと言えば、わたしには時間を守ることと、嘘をつかないことと、友達となかよくすること、だった。あくまはわたしを見て、すこしだけ笑った。いいねそれ、とあくまは言った。
 「その誓いを知っていてくれることが、思いやりや愛情なのだろうと思う。そんな相手を探しているんだよ」
 あくまは自分の言ったことに照れたのか、少し顔をくしゃっとして、小さな声でわたしに話してくれた。 
 「    」

 起きるといつものベッドの上だった。
 隣では細い寝息をたてて、男が寝ている。寝顔は幼さが目立つなぁ。男らしさと言えば頬の辺りの角度くらいだ。目鼻が小さくて睫毛も私より長くて整っている。こんなに近くで見るとあらためて少年だなこのやろう、と思う。安心しきっていて、憎たらしい。年上のくせに。可愛らしい。
 触れられる距離に唇があるし、鼻と口を閉じれば殺せてしまう気がする。
 この間まで友達だと思っていたのに、知らないうちにこんなに距離が近くなったんだなぁ。

 あくまは最後になんて言ったんだっけ。

 そうだ、

 「今度、結婚しようと、思うんだ」

 あくまはあの後恥ずかしそうにしていたなぁと思い出して、起こさないように声を抑えて私は笑った。隣の男は気付かずに眠り続けていた。
 あの、あくまの顔は可愛かった。少年みたいだと思って、私は眠った。