電車が変わる。

 もうすぐ今の仕事を辞める。
 長かった中央線ライフも終わり。高円寺から吉祥寺まで、何度往復したんだろう?


 小さい頃に想像した夜の東京のイメージは、とにかく夜景でキラキラしていて、ビルの屋上の赤いランプと暗闇にまぎれている本体が薄らと見えて、重みと新しさを感じていた。夜の新宿や池袋はもうフィクションの世界でしかなくて、あまりの人の多さと立ち並ぶ店の俗っぽさにドキドキしていた。まさにドラマの世界。
 こっちに住み始めても通勤ラッシュはやっぱり怖かったし、やっぱり人は多くてびっくりする。でもだんだんと見慣れた顔や街によって住み別れている層のようなものが分かってきて、やっぱりどの場所も誰かの居場所であって決してフィクションでは無いのだなと思う。そのうち、深夜の電車の酔っぱらいや独り言をつぶやき続ける人を、皆が無言でスルーしているのにも慣れた。エスカレーターではもちろん左に並ぶ。無駄に怖がっていた前払いのバスにも楽に乗れるようになった。まぁ、パスモのおかげだけど。

 電車の中の路線図を見ても、お金さえあればどの街にも行ける気がする。木更津にも桜木町にも浅草にも蒲田にも。最寄りの駅から携帯で乗り換えを調べて、駅の中の看板や矢印に従って歩いていけば、たどり着けるだろう。街を出れば何処にでもコンビニはあるだろうし、大きい駅の側なら安いホテルでも借りられて、お腹が空いたらチェーンのファミレスにでも入れば問題無い。漫画喫茶に泊まることだってできるし。深夜パックとか。


 なんだかそう思うと、中央線の窓から見えるビルが遠く感じる。
 どうして赤いランプなんだろうとか、そういう理由も分かってしまって。
 想像する余地が減った分、確かなものも、見えてきた気がする。
 でも少し寂しい気もする。春ってことかー。