スモールトーク

 読了。またしても絲山さん。

スモールトーク (角川文庫)

スモールトーク (角川文庫)

 「イッツ・オンリー・トーク」の後日談? それとも以前の話か。そんなことはどうでも良いのだけれど、やっぱりこれも、距離感の小説だった。
 どうしようもなく簡単に言うと、昔の男が車を変えて何度も会いにくる話。
 昔の男って、どうだろう?やっぱり忘れちゃうもの? 私は出会ったり、深い話をした人のことは結構覚えている。その瞬間にどういう話をして、相手がどんな状況でどんなことを考えていたのか、なんとなく覚えている。想い続ける、ということはないけれど、記憶は残るし、やっぱり思い出ってちゃんと出来てる、消せないものだ。
 恋愛するかどうかとか、居心地が良いかどうかとか、それはその瞬間になってみないと分からない。一度喧嘩別れしても、偶然会ってしまう時は会ってしまうのだ。だからって後悔の無い人付き合いをしようとすると、それはそれでめんどくさいけどね、相手にとっては。変わってないね、とはよく言われる。そう言いながら何度か会う人は長い付き合いになる。たぶん、これは慣れなんだと思う。
 私は距離をはかるのが苦手だ。近づくなら思いっきり距離を縮める。すると心が重くなる。お互いに。離れたままの人には、何されても笑っていられる。その人と私は無関係。隣で寝てても頭の中ではお腹空いたとか明日の仕事のこととか考えてる。視界には、いない。
 駆け引きは苦手だし、嫌いだ。普段のままでも相手を支配しようとするような言葉や態度が自然に出てきて嫌なのに、更に相手の心を誘導するようなテクニックを使ったら、もう、自分を愛する余地が無くなる。それって、もう、ちょっとした絶望だ。
 
 昔の恋人に会ったらどうなるだろう。たぶん、相変わらずの話をして、お酒呑んで、最近の話でもしながら、あの頃の話はしない。話さずすれ違って終わりかもしれない。だって、反省するつもりも、させるつもりもないんだもの。した所で何も嬉しくない。進行形の今にしか興味が無いとは言わない、けど、今更昔の出来事を解そうとしても、そんなの話がこじれるだけだろう。
 良いじゃない、全部が上手くいかなくたって。それはそれで、味のある人生っしょ。
 面白い物語でしたよ。